東京地方裁判所 昭和61年(特わ)1931号 判決 1986年12月24日
本店所在地
東京都江東区東陽三丁目二七番六号
株式会社藤和工業
(右代表者代表取締役 佐藤幹夫)
本籍
東京都港区新橋四丁目二〇番地一
住居
同都江戸川区松本一丁目八番一五号
会社役員
佐藤幹夫
昭和一四年二月一六生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官江川功出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人株式会社藤和工業を罰金一二〇〇万円に、被告人佐藤幹夫を懲役八月にそれぞれ処する。
被告人佐藤幹夫に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社藤和工業(以下「被告会社」という。)は、東京都江東区東陽三丁目二七番六号に本店を置き、建築金物工事の設計、施工等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人佐藤幹夫(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統轄しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、受取手数料の除外・架空外注費の計上等の方法により所得を秘匿した上
第一 昭和五五年七月一日から同五六年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六四三九万二〇〇円あった(別紙(一)修正損益計算書及び別紙(二)修正製造原価報告書参照)のにかかわらず、同五六年八月三一日、東京都江東区猿江二丁目一六番一二号所在の所轄江東西税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一六六九万三六〇二円でこれに対する法人税額が六〇五万一〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六一年押第一一三八号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二六〇八万三八〇〇円と右申告税額との差額二〇〇三万二八〇〇円(別紙(五)ほ脱税額計算書の(1)参照)を免れ
第二 昭和五六年七月一日から同五七年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七二七一万五三〇四円あった(別紙(三)修正損益計算書及び別紙(四)修正製造原価報告書参照)のにかかわらず、同五七年八月三〇日、前記江東西税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二一六七万六四三円でこれに対する法人税額が七七三万五五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の5)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二九一四万三三〇〇円と右申告税額との差額二一四〇万七八〇〇円(別紙(五)ほ脱税額計算書の(2)参照)を免れたものである。
(証拠の標目)
標目中、乙の番号は、検察官請求証拠等関係カード記載のそれによる。
判示全部の事実につき
一 被告人佐藤幹夫の当公判廷における供述
一 被告人佐藤幹夫の検察官に対する供述調書八通及び収税官吏に対する質問てん末書八通
一 登記官作成の商業登記簿謄本及び閉鎖商業登記簿謄本(役員欄)二通(乙18、19)
一 林曉、秋山豪及び本多忠正(二通)の検察官に対する各供述調書
一 梶谷忠男(二通)、媚山正毅、岩室英雄、高野俊彦、佐藤充、阿部清治、中川昌子(二通)、加室芳人(二通)及び佐藤節子(二通)の収税官吏に対する各質問てん末書
一 収税官吏作成の次の調査書
1 売上高調査書
2 製造原価外注費調査書
3 製造原価主要材料費調査書
4 賞与調査書
5 接待交際費調査書
6 受取利息調査書
7 支払利息割引料調査書
8 交際費損金不算入額調査書
9 役員賞与損金不算入額調査書
10 利子源泉所得税調査書
11 事業税認定損調査書
12 受取手数料調査書
一 押収してある法人税確定申告書(昭和五五年七月一日から同五六年六月三〇日までの事業年度分)一袋(昭和六一年押第一一三八号の3)及び法人税確定申告書(昭和五六年七月一日から同五七年六月三〇日までの事業年度分)一袋(同押号の5)
(法令の適用)
一 罰条
1 被告会社
判示第一及び第二の各事実につき、法人税法一六四条一項、一五九条一、二項
2 被告人
判示第一及び第二の各所為につき、法人税法一五九条一項
二 刑種の選択
被告人につき、いずれも懲役刑を選択
三 併合罪の処理
1 被告会社
刑法四五条前段、四八条二項
2 被告人
刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に加重)
四 刑の執行猶予
被告人につき、刑法二五条一項
(量刑の事情)
本件は、建築金物工事の設計、施工等を目的とする被告会社の代表取締役である被告人が、被告会社の裏金を蓄積して、事務所・工場の建築資金をつくる、元請の現場責任者に対する簿外の接待交際費に充てる、及びゴルフ会員権の購入等自由に使える金をつくる、並びに元請の現場責任者との通謀によって架空売上を計上して得る受取手数料については不正経理を秘匿する、等の目的から、受取手数料を除外し、また架空外注費を計上するなどの方法により、二事業年度の合計で四一四四万円余の被告会社の法人税を免れたというものであって、そのほ脱額が多額である上、ほ脱率も昭和五六年六月期が約七六・八パーセント、同五七年六月期が約七三・五パーセントといずれも高率であり、ほ脱の具体的方法も、元請に対する架空売上計上に伴う架空の利益を圧縮する(もっとも、架空売上額の約三五パーセントは、手数料として受領していた。)ため、又は、被告会社独自で所得を圧縮するために、被告会社の下請先に依頼して下請先名義又は架空会社名義で架空工事代金を請求させ、振り込まれた代金の約八五ないし九〇パーセントを返戻させたりするなど、多数の下請先を利用して請求書、領収書等を完備した事案であって、その手口は計画的かつ巧妙であり、加えて、被告会社では昭和五三年六月期から架空外注費を計上するなど、本件起訴事業年度前から脱税を繰り返してきたことが窺われること、国税局の調査段階において、下請先と連絡をとるなどして、国税局の円滑な調査を妨げた節も見受けられること等をも併せ考慮すると、被告人の刑事責任は重いといわなければならない。
他方、被告人は本件を反省し、元請と話し合って、被告会社の架空外注費計上の一因となった元請の現場責任者による被告会社から元請に対する架空工事代金請求の要請には協力しないことにするなどの改善を行い、また、被告会社の顧問税理士を二名に増員するなどの経理体制の改善をしたこと、被告会社は、昭和五五年六月期から同五七年六月期の三期分について、本件起訴の検察官の考え方に立脚した計算方法で各法人税額を算出し、その本税を納付したこと、更正決定に対し異議等の申立てをしているものについても、本件確定後、税務当局と話し合いの上、右申立てを取下げて、未納の各税金を支払う旨誓っていること、被告人には前科前歴がないこと等、被告人に有利な事情も認められるので、これらを総合考慮して、被告人については、今回に限りその刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。
(求刑 被告会社につき罰金一三〇〇万円、被告人につき懲役八月)
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 鈴木浩美)
別紙(一) 修正損益計算書
株式会社 藤和工業
自 昭和55年7月1日
至 昭和56年6月30日
<省略>
別紙(二) 修正製造原価報告書
株式会社 藤和工業
自 昭和55年7月1日
至 昭和56年6月30日
<省略>
別紙(三) 修正損益計算書
株式会社 藤和工業
自 昭和56年7月1日
至 昭和57年6月30日
<省略>
別紙(四) 修正製造原価報告書
株式会社 藤和工業
自 昭和56年7月1日
至 昭和57年6月30日
<省略>
別紙(五) ほ脱税額計算書
(1) 自 昭和55年7月1日
至 昭和56年6月30日
株式会社 藤和工業
<省略>
(2) 自 昭和56年7月1日
至 昭和57年6月30日
<省略>